2015年09月24日

若者の「生きがい」&「域外」の連携・マッチングの可能性

 2015年、上四半期(4〜6月)の就業状態、日本全国の15歳以上の労働力人口は、6千616万人(うち15歳〜65歳未満は5千862万人)(図参照・拡大でクリック)。

失業者無業者.png

@「完全失業者」※1(15歳〜65歳未満)は、211万人。
A「無業者」※2(15歳〜65歳未満)は、306万人。

※1…完全失業者とは、労働力人口のうち、従業者(「仕事」「通学」「家事」「休業者」)をのぞいたもの。@は、その中からさらに「15歳〜65歳未満」を抽出したもの。

※2…無業者とは、非労働力人口のうち、ふだん収入を得ることを目的として仕事をしていない者,すなわち,ふだんまったく仕事をしていない者及び臨時的にしか仕事をしていない者をいう。この中には「通学」「家事」「その他」が含まれる。Aは、「その他」かつ「15歳〜65歳未満」を抽出したもの。

さらに、若年をみてみると、

若年完全失業者(15歳〜34歳)は、85万人、若者無業者(15歳〜34歳)は、52万人。
合計すると、137万人にもなる。
15歳〜34歳の全人口(就業・通学・家事をふくむ合計)のうち、5.2%にあたる。
(うち完全失業者3.3%、若者無業者2.0%)

という数字になる。
しかし現状のまち・ひとづきあい、しごとの延長の環境では、ずるずると切り替えがつかないという人も多い筈である。より広域での発想の転換ができる選択肢の多様化も必要である。

 一方、過疎地域に指定された地方自治体は日本の46%におよぶ。その一方で、若者の5.2%、137万人が仕事がない、働けない状態になっている。このマッチングができれば、新しい可能性がひらける。

 生活困窮者自立支援の問題であるが、まち・ひと・しごと創生政策の検討課題としては、若者が今の環境を変え、新しい人と出会いながら可能性を広げるチャレンジをする「生きがい」&「域外」の連携・マッチングをどう実現するか。UJIターン、自治体連携による生活困窮者等の就労・社会参加の促進をどうするか。

新たな試みの先進事例のひとつとして、
「れいほく田舎暮らしネットワーク」の活動は参考になる。
http://www.reihoku.in/
 高知県北部の大豊町、土佐町、本山町、大川村では、空き家情報、農耕地の情報を提供するだけではなく、都市部からの移住希望者の対応もきめ細かく行い、移住促進に伴う地域の活性化を試みている。体験ツアーの中から実際に定着する人が新たに出てきているという。

 このような取り組みを広げる可能性をひきつづき考えてゆきたい。
posted by 早稲田大学早田宰研究室 at 06:14| 日記

2015年03月18日

地域の個性を活かす復興まちづくりと心の豊かさ −白河市の取り組みから考える−


中長期の復興に大切な心の豊かさ

 東北の震災復興の現場では、多くの公共事業がおこなわていますが、これらの復興工事が将来的に一段落した後、その先の未来はどうなるのでしょうか。次世代の子供たち、市民は本当にまちに住み続けるでしょうか。元に戻すだけでは意味がありません。魅力のある地域づくりのためには、地域の強みや個性をより活かすことが重要です。そのためには、市民が関心を持ち、地域の良さを大切にしてもらう必要があります。そうでなければ全国どこでも同じ金太郎飴のようになってしまいます。しかしながら自分のまちと思える個性あるまちづくりの将来のために、何をどう考えて社会を運営したら良いのか難しいのも事実です。
 そこで先進事例である福島県白河市の震災後の未来を見据えた心豊かな復興のソフトな仕組みづくり、自治基本条例の取り組みについて紹介します。


白河市の「共楽」の思想

 白河市は、福島県の最南部、みちのくの玄関口に位置する人口6万2千人のまちです。新幹線で東京駅から新白河駅まで1時間20分ほどです。白河は、歴史文化、環境の豊かなまちです。江戸時代は白河藩となり、有名な寛政の改革を進めた松平定信が藩主をつとめたことで知られます。

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松平定信自画像(鎮国守国神社所蔵)

 度重なる凶作に備え、備蓄十分にすることで、白河藩からは一人の餓死者も出しませんでした。松平定信は、身分の高い低いにかかわらず、ともに楽しむ「共楽」の考え方を唱えました。その思想は、誰もが楽しめる場所「南湖公園」をつくったことによく顕れています。湖のほとりには定信が愛した茶亭「共楽亭」があります。この建物には敷居や鴨居などの段差や区切りがありません。目の前には雄大で美しい風景が広がっています。

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南湖公園(白河市)

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共楽亭 *1)

地域づくりを促進するための6つの要素

 震災では、白河の誇り「小峰城」も被災し、石垣も壊れてしまいました。白河市は震災後に復旧の工事を進めるだけではなく、中長期の復興をみすえて、郷土の誇りをとり戻し、未来の繁栄の基盤を作り直すこと、いわば社会のデザインを始めました。
 郷土づくりとは、自然の地形、気候風土の中で先人たちのたゆまぬ努力でかたちづくられてきたもので、

@市民の誇りや自主性
Aコミュニティのつながり
Bまちの未来像
C参加・協働
Dシンボルとなるまちづくり
Eこれらを担保する新しいルール

などが大切です。これらひとつひとつが、まちづくりに欠かせないもので、つながりあって連携、循環して地域の個性をつくっています。
 これらのうち優先順位、どれが後・先ということはありませんが、震災復興の場合は、短期的なショックから、ともするとDシンボルなどのわかりやすい目先の事業にばかり目が奪われがちです。@主体性、C参加・協働、Eルール等がしっかりしなくては、決して全体がうまく動きません。齟齬や溝がうまれ、まちづくりは空回りし、市民や役所のストレスも多くなり、その結果、復興のパワーもスピードも落ちてしまいます。そのような地域は企業も投資からも避けられますので、結果として中長期的には、産業も減退し、人口も減少へ向かってしまいます。


白河の未来を拓く自治基本条例

 市民皆の力で白河の未来をどう切り拓くかかが課題です。その基盤となるのは自治です。震災後、目の前のことだけで膨大に忙しい中、そして原発のたいへん厳しい状況を身近かにしながら、自治の基盤からもう一度つくりなおすという地道な作業を始めました。
 そのために重要となるのが自治基本条例です。まちづくり基本条例ともいわれ、自治の基本的な仕組みを定めるもので、全国の約3割の地方自治体が制定しています。指定している団体に共通するのは地域の個性や自主性、自立性を大切にしていることです。毎年増えています。震災後、岩手・宮城・福島では、西和賀町まちづくり基本条例(平成24年1月1日)、北上市自治基本条例(平成25年1月1日)、白河市自治基本条例(平成26年4月1日)、滝川市自治基本条例(答申まで進行中)などが制定されています。
 白河市においては、自治基本条例をつくる方向性は実は震災前からありました。地域課題はすでに多様化・高度化してきており、行政の今までの仕組みでの対応が難しくなっていました。さらに東日本大震災で被災し、ますます将来へ向けた行政が困難になってきました。

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白河市自治基本条例の広報より


震災後だからこそ、自治基本条例をつくる

 震災があったにもかかわらず、否、震災があったからこそ、自治の基盤となる条例をつくる動きをしっかりと前に進めることにしました。震災から2ケ月後の5月に委員を公募し7月に市民会議を設置しました。議論をつみ重ねて、「白河市自治基本条例」*2)が、平成25年9月に公布され、平成26年4月に施行されました。
 自治基本条例を制定する理由や狙いは様々ですが、白河市では、これからのまちづくりを進めていくための「物事を考えたり、決めたりする場合の基本的な考え方、仕組み及びルール」を定めたものと説明しています。とてもわかりやすい説明だと思います。
 その内容は、とても白河らしいものです。前文には、定信の「共楽」の言葉を据えています。震災後の条例らしく、震災の経験と教訓を風化させずに未来へ引き継ぐことを重視した内容となりました。そしてなにより、歴史・文化・環境等の地域資源をより活かす、地域の課題が多様化・高度化に応えることが狙いです。市民は、地域特性を生かした個性豊かで住み良い地域づくりに努める(10条)こととし、市は市民活動への支援に努める(17条)こととされています。


小さな取組の大きな効果

 この条例にもとづいて白河市では、個性あるまちづくりを推進しています。市内4つの地区(白河地域、大信地域、東地域、表郷地域)では、地域特性をいかした自発的取組みを推進しています*3)。「地域づくり活性化支援事業」を活用し、各地の身近かな地域を単位としてコミュニティづくりが推進されており、平成26年には、18の事業が取り組まれています。

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平成26年度 地域づくり活性化支援事業の概要

 白河桜まつりにおける白河歴代藩公行列への市民の参加、琴平相撲や隈戸川音頭などの地域の伝統文化・行事の復活や保存継承、絶滅危惧種「ビャッコイ」保全研究など、歴史文化・環境の取り組みがおこなわれています。子育て家族の居場所や家族のきずなを大切にする事業、再生可能エネルギー導入推進市民啓発をおこなう事業も支援されています。
 こうした身近なまちづくり事業が、白河市民の誇り、市民の意識を高め、白河の未来をみんなで開いています。自治基本条例は制定されたばかりですが、こうした事業をさらに推進しており、その効果はすでにいろいろなかたちで表れてきています。

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大信地域における隈戸川音頭の復活 *4)

まとめ

 白河市の取組みは、歴史文化に学び伝えることの大切さ、地域づくりを推進するために必要なこと、コミュニティの基盤をつくること、小さな取組が大きな効果に結びつくことを教えてくれています。地域の個性を活かすには、市民が知恵や力を活かして参加・協働できる社会的な環境づくりが大切です。自治基本条例はその必要性、狙う効果、つくり方などにいろいろな考え方がありますが、持続可能な東北復興のために、震災後であるからこそ自治基本条例をつくるという先を見据えた取り組みから学ぶことが多くあります。
 震災から4年が経過した今、中長期の復興のために何が本当に必要なことなのか、何をすべきか、まちづくりの真贋が問われます。持続可能な東北のためには、‘寄らば大樹の陰’ではなく、地域の個性や強みについて市民、議会、市町村長や職員ひとりひとりが考え、活かす取り組みを支援する必要があります。白河市のようなまちが東北の被災3県からさらに出てくることが今後いっそう期待されるのではないかと思います。
(早田宰)


脚注・引用の出典
*1)共楽亭
http://www.city.shirakawa.fukushima.jp/view.rbz?cd=795
*2)白河市自治基本条例
http://www.city.shirakawa.fukushima.jp/view.rbz?nd=823&ik=1&pnp=107&pnp=319&pnp=322&pnp=823&cd=5032
*3)白河市地域情報
http://www.city.shirakawa.fukushima.jp/info.rbz?nd=409&ik=1&pnp=409
*4)隈戸川音頭復活
http://ameblo.jp/shihori3614/entry-11786521203.html

posted by 早稲田大学早田宰研究室 at 12:27| 日記

2015年02月06日

大隈重信の「社会の結合」の思想−『國民読本』から−

 大隈重信は二次にわたり総理大臣に就いているが、その中間の時期は政界を一度引退して、学術、文化振興、出版に情熱を注いでいる。その時期に『國民読本』はまとめられている。国民の理想を顕明し、中学校の副読本教材とすることを念頭に置いたもので、全206ページである。

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 後半に「社会の結合」について著しており、それを引用する。

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大隈重信『國民読本』社会の結合

(引用)

第三章 社會の結合

御製 もろともにたすけあひつつ國民の
      むつびあふ世ぞたのしかりける

 一家仁ならば、一國仁に興る。個人の發達、一家の親和より進みて、社會共同の力を固くせば、国家はおのづから隆盛なるべく、随ひて個人もみな共に福利を享くべし。社會の結合は、自治を完うし、また憲政を資くるものなり。
 凡そ社會にありては、隣保相扶け、郷黨相結びて、禍福を分ち、利害を同じくし、善を奨め、悪を除き、公益思想の進歩を図るべし。殖産興業にありては、諸種の組合を作りて、信用を増し、生産を加へ、また公共事業にありては、公民會・青年會・在郷軍人會等の組織ありて、業務を励まし、風俗を敦くし、徳教を遍からしめざるはなし。而して公人の悖徳は、社會に悪風を伝ふること甚だしきものなれば、大いに之を慎まざるべからず。社會の美風は個人を徳化し、延いて国家を健全ならしむ。

大隈重信(1913)『國民読本』, 寶文館, P196-197
posted by 早稲田大学早田宰研究室 at 11:19| 日記